債権回収において、費用も時間もかかる訴訟はできるだけ避けたいところではありますが、債権額と訴訟費用の費用対効果で折り合いが付けば、民事訴訟という最終手段に打って出て解決を図らざるを得ない状況も出てくるかと思います。
あるいは、コストは度外視してでも、白黒をはっきりつけたい、泣き寝入りはしたくないという思いで訴訟を起こす方もいらっしゃるかもしれません。
いずれにしても、訴訟を起こす際には、手続きを行う上で、相手の住所が必要になってきます。
訴訟を起こすために、なぜ住所が必要になってくるのか?
訴訟を起こすには、まず管轄する裁判所に訴状を提出することから始まります。
そして、訴状が受理されれば、訴訟が提起されたことが被告に伝えられなければなりませんので、裁判所より訴状の副本が被告に対して送達されます。
この際に、郵送先となる相手の住所が必要になってきます。
ちなみに、訴訟を提起する管轄の裁判所については、金銭がらみの訴訟の場合、その訴額によって以下のように管轄が別れています。
訴額 | 管轄裁判所 |
---|---|
140万円超 | 地方裁判所 |
140万円以下 | 簡易裁判所 |
それぞれの裁判所の中でさらに、どの場所にある裁判所に提起するのかですが、原則として、被告人の居住地を管轄する裁判所になります。
ただし、あらかじめ双方が合意しているのであれば、その裁判所、また、特例が定められていて、貸金返還請求や損害賠償請求などの事件については、義務履行地、つまり、債権者(原告)の居住地を管轄する裁判所に提起することもできます。
さらに、訴訟に関連して、どのようなシーンで住所が必要になってくるのかを考えてみたいと思います。
相手の職場がわからない場合
訴状の送達場所ですが、民事訴訟法第103条には、「送達は、送達を受けるべき者の住所、居所、営業所又は事務所においてする」と定められています。
優先順位としては、まず、住所もしくは居所が原則ですが、わからない場合は、相手の就業場所である勤務先に送達することもできます。
なので、もし所在がわからなくても、相手の勤務先がわかっていれば、訴状を送達することが可能で、訴訟を起こすことができます。
ただし、就業場所送達を行うには、十分に住所調査を行ったのかどうかなどを裁判所の書記官に報告し、申請する必要があります。
少額訴訟を提起する場合
貸金返還請求など金銭請求で訴訟を提起する際、訴額が60万円以下の場合には、少額訴訟が可能です。
少額訴訟は、原則1日の期日で判決まで出ますので、通常訴訟に比べ、手軽かつ、迅速な解決が見込める訴訟手続きです。
少額訴訟においても訴状の送達場所は、住所がわからなければ上述のように勤務先への送達も可能です。
しかし、勤務先がわからなければ、通常訴訟で可能な後述する公示送達が認められていないため、少額訴訟として訴訟を提起することができず、通常訴訟で提起することになります。
なので、相手の住所が不明でなおかつ、勤務先もわからず、それでも少額訴訟を行いたい場合には、どうにかして居所を特定する必要性が出てくるのではないかと思います。
強制執行を行う場合
訴訟で仮に勝訴を勝ち取ったとして、それで万々歳、すべて解決というわけではありません。
被告がそれでも支払いに応じないということも十分あり得ます。
そうなった場合には、裁判所による強制執行で被告の財産からこちらの債権を回収することになります。
強制執行の対象となる財産は、相手の動産や不動産、債権などがあり、動産や不動産から回収するには、相手の住所が必要になってくるものと思われます。
さらに、銀行預金や給与など被告の債権から回収する際は、住所が必要ないように考えられますが、そもそも、強制執行を行うには、判決を元にした債務名義を被告側に送達したということを証明する送達証明書が必要です。
ここでもやはり住所というものが必要になってきますが、条件を満たせば、公示送達も可能です。
なお、ひとくちに住所不明と言っても、以前の住所はわかっていてそこから転居して現在の居所がわからないというケースもあるでしょうし、それさえわからず、まったく不明という場合もあるでしょう。
上述した内容は、あくまで法律に基づく一般論で、実際には様々なケースがあるかと思いますので、詳しくは、本人訴訟の場合には管轄の裁判所へ、また、弁護士に依頼して訴訟を起こす場合には弁護士に、それぞれにお問い合わせください。
訴訟手続きで住所がわからない場合の対処
では、被告の住所が不明の場合、具体的にどのような対処をすればよいのでしょうか?
まずは、自分でできることとしては、最低限、相手の住民票は請求しておく必要があるかと思います。
一般的には、第三者が個人の住民票を取得するということはできませんが、ここで取り上げている訴訟目的であれば、それを証明する資料を求められるものの、交付は受けられるものと思います。
そうした方法がダメな場合、どういった手段があるのかを考えてみたいと思います。
公示送達の申立てを行う
公示送達とは、裁判所が送達すべき書類を保管し、本人が出頭すればいつでもその書類を交付する旨を記載した書面を、裁判所の掲示板に掲示する送達方法です。
もちろん、被告本人がこの書面を見ることは、ほぼないかもしれませんが、掲示開始日から2週間が経過した後、到達したとみなす制度です。
この公示送達が適用されるケースは、民事訴訟法第110条に定められていますが、その中に、「当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合」とあるように、被告の住所が不明な場合にも適用することができます。
ただし、いくら訴状が届いたとみなす制度とはいえ、被告が訴えられているという事実も知らず、なおかつ、反論する機会も持てないまま判決が出てしまうわけですから、公示送達は慎重に取り扱われなければなりません。
公示送達が適用されるには、原則として原告が申立てをしなければなりませんが、その際、他の送達方法を取ることができないこと、また、原告が被告の住所を調査した状況を記した書面等を提出しなければなりません。
なので、公示送達を申立てる前に、原告が可能な限り住所を調べておく必要があろうかと思います。
弁護士に依頼する
弁護士にはさまざまな権限があり、相手の居所がわからなくても、職務上請求によって住民票や戸籍なども取得できますし、弁士会照会、いわゆる23条照会により、関係各所に対して、さまざまな被告に関する情報の照会を請求することができます。
例えば、相手の携帯電話番号やキャリアメールアドレスがわかっていれば、それをもとに、キャリアに対して登録されている住所を照会してもらうといったことなども可能となってきます。
ただし、こうした請求は、例えば、訴訟の依頼を受け、その職務遂行のために請求するものなので、単体での依頼は受けてくれないと思いますが、そのあたりは、個々の弁護士に直接相談してみてください。
探偵に依頼する
上述の弁護士による職務上請求や23条照会で調べることができるのは、あくまで関係各所に届出ている登録上の住所です。
もちろん、その登録上の住所に本人が住んでいないということも十分にあり得ます。
その際には、やはり、人探しや住所調査のプロである探偵に依頼するのも一つの方法です。
探偵では、弁護士のような職権はありませんが、さまざまな情報から現在の居所を調べることも可能です。
もちろん、探偵に依頼するとそれなりの料金はかかってきますし、少額訴訟など本人訴訟の場合には、費用対効果を考慮しなければなりませんので、まずは、探偵に見積もりを依頼し、じっくり検討する必要があるでしょう。
【参考】探偵興信所の料金や費用相場を解説
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